『4月解禁 首相要請へ』 『学業専念 就活短く』
昨日の日経新聞の見出しである。
そして記事の書き出しは次のようになっている。
「大学生の就職活動の解禁時期が繰り下げられることが事実上決まった。安倍晋三首相が19日、現行より4カ月遅い「4年生の4月から」とするよう経済3団体首脳に要請する。」
新聞記事によって既成事実化されてしまった……。
僕は、経団連の米倉会長が「容認」とも思える記者会見を行なったことを受けて、翌朝、次のような記事を書いた。
米倉会長、本当にそれでいいんですか?
米倉会長は記者会見では「容認姿勢」を示したものの、経団連のホームページでは一転、慎重な姿勢を表明している。実はまだ、「受け入れるかどうか決めかねている」というのが真実なのではないだろうか。
いまから2年前。やはり経団連の倫理憲章の改定により、企業の採用活動開始時期が2カ月後ろ倒しになったことがある(考えてみたら、まだつい最近のことだ)。
このときも僕は(この倫理憲章の改定は)トンチンカンなものであると思っていた。
このとき、某団体(いまだから明かしますが経済同友会です)に所属する経営者の秘書室長から意見を求められ、僕の考えを述べたことがある。
そしてその内容を、2011年9月9日配信のメルマガのコラムにまとめて、人事担当者を中心とする社会人の方々にもお読みいただいたことがある。
僕の考え方は、このときからまったく変わっていない。
ちょっと長くなるが、本日はそのメルマガを転載することをもって、安倍首相への意見表明としよう。
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2011年9 月 9日 (金)
第54回 経済団体の方々に、こんなことを言うてみたんじゃが…
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パフ代表釘崎が、現在の採用市場、就職活動、世の中のあれこれについて、日々感じることを徒然なるままにお届けします。 ※「どげえするんか?」=大分弁で「どうするんだ? どうしたいんだ?」
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私たちの業界は、例年ならばこの時期、就職サイトや顧客企業の採用ホームページの10月上旬のオープンに向けて、日々取材や原稿作成などの制作活動に追いまくられているころです。
そして学生に対しては、業界を知ってもらったり、OBやOGの話を聞いてもらったりしながら「働く」ということを実感してもらうためのイベントやセミナーを仕込んでいる(あるいは実行している)ころです。
ところが今年に限っては、状況が全く異なっています。
就職サイトや採用ホームページのオープンは2カ月遅れの12月から。学生向けのイベントやセミナーも自粛傾向。
おかげで、私たちの制作活動は、まだほとんど始まっていませんし、(企業の採用を主目的としない「職サークル」を除く)イベントも、まったく手つかずの状態です。
企業によっては、大学からのOB・OGの派遣要請までお断りしていると聞いています。
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原因は言うまでもなく、日本経団連が打ち出した「採用選考に関する企業の倫理憲章」です。
そして、この倫理憲章に呼応する形で、日本の大手就職情報会社で構成されている『日本就職情報出版懇話会』が、「就職サイトのオープンを12月1日以降にする」という「大英断」を下したことによります。
それはまさに、「大人だけの事情」による「大英断」であったと思います。
ここ数年(いや、実はずっと昔からなのですが)採用活動早期化が引き起こしている諸問題を、いろんな方々が指摘しています。そしてそれには、的を射たものも確かにある一方で、まったく見当違いの批判になっているものも少なくありません。
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少し前(今年の2月上旬ころ)になりますが、とある経済団体(日本経団連ではありません)の関係者の方から、この問題に関する見解を聞かせてほしい、という依頼を受けたことがありました。
その経済団体の方から受けた質問は、主に次の3点についてでした。
1)採用の早期化(『選考活動の時期』と『広報活動の時期』)について、どのように考えるか?
2)「既卒者を新卒者と同等に扱うべし」という考え方についてはどうか?
3)インターンシップについて、どのように考えるか?
本日は、そのときに回答した内容を、抜粋・要約・編集して、この「どげえするんか?」に載せてみたいと思います。
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1)採用の早期化について
<選考活動の時期>
・学生の春季休暇、夏季休暇の期間中に行うことで、学生の授業や研究の妨害を防げると考えます。また、選考の時期を遅くとも半年前までに明らかにしておくことも大事だと思います。1年に複数回の選考を行ったりすることもあってよいと思います。
・すべての会社の選考を一律に「○○月以降にする」という規制には反対です。過去の就職協定の歴史をみても分かるように、形骸化することは目に見えています。むしろ規制することによる弊害(皆が一斉に動き出し、学生の自由を拘束し、騙したり、脅したりするような採用が横行する)が生まれるのではないかと危惧します。
・結論として、選考時期は「原則自由」。ただし授業の日程にだけは配慮する。極端な話、1年生に対して内定を出し、「卒業したらうちの会社で雇ってやるから、思う存分卒業するまで勉強とか部活とか恋愛にも励め。ただし、経営学と英語と中国語はAの成績を取ることが入社の条件だ!留学も1年くらいしてこい」みたいなことを、言い渡せるような選考が素敵だと思います。
<広報活動の時期>
・広報活動は、むしろ対象を大学1年生にまで広げ、各企業の努力で、企業のリアルな姿を伝える工夫や活動を早期からすべきだと思います。
・同時に、自社で求められる能力(基礎学力、教養・知識、専門能力、態度能力)や、志向性・価値観等も伝え、学生時代に、どのような研究や課外活動に力を入れ、どの程度の成績を残した学生が自社で活躍できるのか(入社試験に合格できるのか)を、正しく(オブラートに包まず)伝えるべきと思います。それによって、学生は自分が目指すべき(あるいは目指しても合格する可能性のある)企業を判断することが出来、頑張るべきもの(勉強や課外活動等)を見つけることができるのだと思います。
・多くの企業は採用対象校を絞り込んでいます。その実態を明らかにすることには抵抗があるかもしれませんが、過去の採用実績大学・学部・学科と、それごとの人数を開示させることは必要だと思います。上記の「自社で求められる能力の開示」とのセットで無駄に膨れ上がってしまった学生の応募者を少なくさせられるとともに、マッチング精度を高められ、採用の長期化と、採用担当者や学生の徒労感を無くすことに繋がると思います。
・結論として、多くの方々が仰っている意見とは真逆で、広報活動は早期化すべし。ただし、人気取りの宣伝活動ではなく、リアルを正しく伝える広報活動を促すべきだと考えます。
2)「既卒者を新卒者と同等に扱うべし」という考え方について
・賛成です。そして、このことは上記の広報活動のなかで、学生に求める能力要件や選考時期とセットで伝えるべきです。
・しかしながら、就職を理由なく先送りする、就業意識や能力に乏しい学生や、「憧れ企業」への幻想を断ち切れない学生を量産する危険性を孕んでいます。
・(広報のところで述べたような)企業が求める能力要件をハッキリさせること、学生の就業能力(意識含む)の育成を、セットで行う必要があると思います。
3)インターンシップに対する考え方
・インターンシップに関しては、低学年から多くの機会を企業は提供すべきだと思います。採用直結型であっても構わないと考えます。本気の仕事を、長期間実施させるインターンシップがベストと考えます。そこから見出した人材については、結果として「青田買い」となっても然るべきと思います。
・インターンシップとは呼ばなくても、「社員の仕事と変わらない本気のアルバイト」で良いと思います。たとえば昔のリクルート社は、そのようなアルバイト雇用を積極的に実践していました。アルバイトには高卒者や大学生もいましたし既卒者もいましたが、彼らはそこで仕事や社会を学び、優秀な成績者は正社員として雇用されていきました。
・本気のアルバイトを数ヶ月行うことで、実社会の裏も表も、働く厳しさも喜びも、汚さや理不尽さや企業の不完全さといったネガティブなことも含めて、よく知ることが出来るのだと思います。
・教育がしっかりしている飲食業でのアルバイトは、ある意味立派なインターンシップです。某大手飲食チェーン店でアルバイトをしたおかげで逞しく成長した若者を、私はこれまで多数見てきました。
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私のこの回答が、その経済団体のトップの方まで届いたかどうかは分かりません。
しかし、心ある経済団体の幹部の方々には、日本の将来を担う若者が、社会で活躍する人材として巣立つために本当に必要なことは、採用時期を遅らせたり、社会人との接触を妨げたり、インターンシップを(奨励すると言いながら結局は)自粛させたりすることでは決してない、ということを、ぜひともご理解いただきたいと思っています。
【今回のどげえするんか】
しっかしまあ、今年の12月から一斉に始まる就職活動は、どうなるんじゃろうか。学生は例年以上に、右も左もよう分からん状態で「とりあえず皆が行く方向」に流されていくような気がしてならんの。そして数ヵ月後やっと、迷子になってしまった自分の姿に気が付くんじゃろうなあ……。
手遅れにならんことを祈りたいの。それ以上に、「既卒でもまだ大丈夫!」という変なモラトリアムに逃げ込まんことを祈るばかりじゃ。
いや、祈っとる場合じゃないな。ワシらに出来ることはあるはずじゃけんの。
あんたはどげえ思う? どげえするんか!!