2000年9月14日。
内定者のフルカワとボクは、朝のミーティングが終わってすぐ、 会社を飛び出した。
午前10時に、世田谷の用賀に本社のあるSS社の人事部にアポイントをもらっていたためだ。
SS社には、ボクも含めてパフの社員やインターンシップは、 それまで一度も営業訪問したことがなかった。
実は、1週間ほど前、フルカワが、パフの資料を「とりあえず」一式送っていた。
それを先方の担当者(Nさんという)が、ちゃんと目を通してくれており、“顔の見える採用”というフレーズに興味を持ってくださったのだった。
そしてSS社の方から「詳しく話を聞いてみたい」という電話を、 フルカワ宛にくれたのだった。
「フルカワァーっ!先方から電話がくるなんて、こりゃ、大いに脈ありだぞ、初受注行くぞ!」
大きな期待をもって、ボクも一緒に行くことにした。
しかし!
フルカワと一緒にSS社に向かうボクは、モーレツに機嫌が悪かった。
なぜか?
その1。
内定者4人は、いつも団子のようにくっついて仕事をしており、遊びやサー クル活動のように、ペチャクチャペチャクチャと、緊張感なく仕事をしてい た。そのことに堪忍袋の緒が切れたボクは、朝のミーティングで彼らに怒鳴り散らしたのだった。「仲良し倶楽部じゃないんだ!バカタレ!」と。
その2。
フルカワは、SS社まで「30分あれば着きます」と言っていたのだが、調べてみたら、月島駅から用賀駅までの所要時間だけで40分もかかる。そのことが判明したのが、朝のミーティング終了後の9時15分。 「馬鹿やろー!!遅刻じゃねぇか!何が30分だ!ちゃんと調べておけ!」と怒りまくるボク。
朝っぱらから完全にブチ切れた状態で、SS社に向かっていたのだった。
向かう途中、フルカワとは、ほとんど会話を交わさなかった。言葉を発すると、さらに怒鳴りつけそうな自分がいたからだ。
実は、このフルカワ、この日が内定者研修の、いったんのピリオドの日だった。
彼女(フルカワはいちおう女です)は、関西の大学に通っており、後期の授業が翌週から始まるため、大阪に帰らねばならなかったのだ。
まだ受注のなかった彼女にとって、この日のSS社が最初で最後の大きな チャンスのはずだったのだ。
(それをよりによって俺を怒らせた上に遅刻までさせやがって…。 この物語を書いている3年後の今でも、ついつい頭にきてしまう…)
用賀駅に着いた。
時間はすでに約束の10時になろうとしていた。ここからSS社まで10分くらいはかかるであろう。
「おい、フルカワ!すぐにSS社に電話しろ!Nさんっていったっけ?担当の人に、『10分ほど遅れてしまいます。大変申し訳ございません』と丁重に詫びるんだぞ!」
フルカワはビビりながら、自分の携帯から電話した。
「く・クギサキさん、SS社のNさん、『大丈夫だから慌てずにおいでください』とのことでした」
“慌てずに”といわれても10分もの遅刻である。 出口から小走りでSS社に向かった。
・・・つもりだった。
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