ゴリラ的読書日記之9
こんにちは。今回ご紹介したい著書は一橋大で競争戦略論を専門に教鞭をとる楠木建教授のものです。タイトルは『好きなようにしてください』。とてもファンキーなタイトルですよね。個人的には結構好きです。
…という冗談は一旦脇に置き、楠木先生。私達は学校から社会に出て、多くの『未知との遭遇』に出くわし、そこから計り知れない程の影響を受け、思春期に形成されたブニョブニョでユルユルな人格や思考回路を再度構築し直していくものだと思います(いや違う。小学生の頃から物事をキチンと考え、ブレない人格を手に入れている、と主張する方。どうぞ我が道をただひたすらに、一身に突き進んで下さい。多分自分は一生袖が触れ合わない人間です)。
そしてその思考回路の再構築に多大な影響を与えた著書の一つが、楠木先生が書いた著書『ストーリーとしての競争戦略』でした。ビジネス書では空前絶後の大ヒットとなった本ですので、ご存知の方も多いかと思います。私もペーパーに頻繁に先生の理論を勝手に登場させ、幅広くお世話になったものです……敢えてここで話しを逸らしますが、以前に楠木先生と仕事をご一緒する機会がありました。
なんせ、あの楠木建(敬称略)。楠木建(同左)だよ。あと5分後に本物に会えるだよ。マジかよ…一瞬でバカがバレそう…いっそのことバカ全開でいくか…いや違うな、むしろ…と思い悩んでいたら本人登場。シャア風に云うのであれば、「何だ!?このプレッシャーは??」です。佐伯が一ファンだからだろうに…と思われるかもですが、もう一人その場にいた、そこまでファンでも無く、私程の興味もなかった(だろう)先輩(ゴメンナサイ)もその解き放たれる見聞色(Onepiece参照)に後ずさりしていました。
一言に目力が半端無い。多くを無駄に誇張して語る人ではないのですが(多分…至極勝手な印象です)、相手の一挙手一投足を観察し、その人の人となりを瞬時に判断できてしまいそうな…そんな奥行きがある眼をしていました。楠木先生は同書でも頻繁に自分を「フツーの人間」と表現しますが…間違いなく云えることは「フツーの人間」は覇気(Onepiece参照)を持っていません。フツー日本代表は私達の方です、と云いたいです。更に空気を読まずに話を逸らし続けていきますが、小難しいミーティングが終わり、一息ついたタイミングでサッとお願いした直筆サイン。新書で時と共に直ぐに劣化していってしまいそうですが、今でも大切に私の本棚の一角に収まっております。その節は真に有難うございました。言葉足らずな自分ですが、本当に感謝しております。
■楠木建(2016)『好きなようにしてください たった一つの「仕事」の原則』ダイヤモンド社。
■動機:上述のよう、結構なファンですので、AK○48のCDが出たら即買いするファンの如く、即買いです。考えるな、感じろ、です。…はい。分かってます。何も云わないで下さい。
■所感:この投稿記事を書いている直前に、私が学問の師と仰ぐT.A先生とH.ミンツバーグ著『MBAが会社を滅ぼす』をネタにMBA教育が社会に及ぼす影響について議論をしておりました。その中で出た一つの結論として、戦略のそれ自体の存在意義は最早希薄化しているということ。一昔前では一部の優れた経営者が生み出した芸術のような戦略が人を魅了し、圧倒的な原動力をもたらし、実現に至る事例は散見されたが、時代は変わった。現代では視えない市場原理が地球の隅々まで行き渡り、それが成果の大半を決定付けている。となると戦略は正真正銘のアートであり、それ自体は何の意味も成さない。価値を生まない。価値もない。一方で、未だに希薄化したその意義に無我夢中になり、目新しいフレームが出れば飛びつき、何となく『やったった感』で満足している教育現場が散見され、益々日本は戦略音痴になっている。真の戦略とは、視えない市場原理を迅速(1)に妄想し、対する仕組みを迅速(2)に構築し、迅速(3)に行動を起こし、迅速(4)に改善点を見出し、迅速(5)に改良を加え、迅速(6)に再度実行に移す。ひたすらにそのサイクルを迅速(7)に繰り返した結果、その痕跡を迅速(8)に振り返ってみた時に『ヤベ。これって「戦略」じゃない?』が本当の姿である(無論、成果が上がっていることが前提であり、闇雲に行動を起こすことは誤り。「無謀」と「勇敢」の違い)。
私の理解では楠木先生も同書で本質的には同じことを主張されているように思います。同書は学生から社会人と幅広い層から寄せられる仕事上の悩みについて、楠木先生自身の見解を述べるスタイルになっているのですが、そのうち学生から寄せられる相談ごとの多くが、「大手かスタートアップか」「経営者になるためにはどうすればよいか」「万全なキャリア計画を練るために何をすればよいか」といった視ようとも決して視えない、先生の言葉を借りると『拉麺を食べたことの無い連中による拉麺談義』的な、不毛なお悩み事相談会になっていることを危惧していました。先生の意見は、まずは川の流れに身を任せ、まずは飛び込む、失敗をする、痛い思いをする、何かを学ぶ、また新たな川に飛び込む、ちょっとマシになる…を繰り返すことで自らの型が徐々に出来上がっていくのであり、視えない物事に関しては唯一の絶対的基準である自分の『好き嫌い』に委ね、直感に基づき、まずは行動を起こすことの重要性を説いていました。だからタイトルは『好きなようにしてください』。
強く賛同します。
『成功までの「最短距離」はありえません。かといって、「人生にまわり道なし」もまた真実。』
とても印象に残るフレーズでした。
■お薦め本
楠木建(2013)『経営センスの論理』新潮新書。
楠木建(2014)『「好き嫌い」と経営』東洋経済新報社。
吉原英樹(2014)『「バカな」と「なるほど」』PHP研究所。
【追記】 遂に先が視えない17採用が始まりますね。Puff社員一同、皆様のご武運を心よりお祈り申し上げます。