深夜零時半過ぎ。さて、日記でも書いて寝るかな…と思って歯を磨いていた時だった。
突然、ピーポーピーポーピーポーという大きな警報音とともに、「火事です。火事です。この付近で火災が発生しました。速やかに避難してください」という自動音声が鳴り響いた。
えっ?火事??
ホントかよ。半信半疑ながらも、もし本当だったらまずいと思って、外に出てみた。
僕が住んでいるのは15階建てマンションの3階。同じ階には7~8世帯の家族が住んでいる。
玄関から外に出ると、他の部屋の方々も皆、出てきていた。
自然と声をかけあった。
「火事ってホントですかねー」
「いやー、焦げ臭い匂いもしないし、その気配は感じないですよね」
「ですよねー」
まだ警報音は鳴り響いている。自動音声が変わった。
「11階で火災が発生しました。すぐに避難してください」
そうか11階か。じゃあ万一ホントに火事でも、うちは3階だから、大丈夫かな。と、なんとも呑気に僕はまた部屋に引っ込んでしまった。
それから少し経過して、今度は消防車がピーポーピーポーと、けたたましいサイレンを流しながら近づいてきた。
あれ、さすがにマズイかな……。
と、一階まで非常階段で降りて行った。
外に出てびっくり。
消防車とパトカーが連なっており、その周辺にはヤジ馬が群がっている。
ありゃりゃ。ホントに火事だったんだな。
でもマンションを見上げても、火の気はどこにも見つからない。
消防士さんたちが、あちこち走りまわっている。放水の準備も、いつのまにか整えられていた。一台の消防車は、ホースの繋ぎ方が悪かったのか、道路に水を撒き散らしていた。
どうなるんだろう…と、10分くらい僕もヤジ馬の中に身を置いた。
でも放水が始まるどころか、どこが火元なのかもさっぱり見当がつかない。
少しして「火事ではありませんでした。お騒がせしました」と、消防士の隊長みたいな人がスピーカーでアナウンスをした。
なんだよ。人騒がせな。
ホッとしたというか拍子抜けしたというか。でもホントの火事じゃなくて良かった。
このアナウンスでヤジ馬たちはサーっと、いっぺんに消えていった。
僕は、路上にいたお巡りさんを掴まえて、「いったい原因はなんだったんですか?」と聞いてみた。
するとお巡りさんは、「いやあ、どうやら火元と疑われた部屋の住人が料理をしていて、その煙が火災センサーにひっかかったようですね」と、丁寧に教えてくれた。
なんじゃそりゃ。
まあ、納得したといえば納得したが、それにしてもこんな深夜に、なんの料理をしてたんだ?と新たな疑問がわき出てきた。
それにしてもこの誤報によって、消防車5台と数十名の消防士が出動したわけだから、煙を出しちゃった部屋の人はバツが悪いだろうな。何事もなくて良かったんだけど。
でもあれですな。日本の消防署はエライな。この短時間に消防態勢を整えちゃうんだから。
一方で、ヤジ馬たちが携帯のカメラで一斉にパシャパシャ写真を撮っている光景は、ちょっと薄気味悪かった。何の被害もなかったから良かったものの、このマンションの住人としては、ちょっと腹立たしい気持にもなった。
元はといえば火災センサーが間違えて料理の煙を感知しちゃって、自動的にマンションの警報が鳴り響き、自動的に消防署に通報されたことが始まりだったわけだが、なんだか便利な世の中なのか、融通の利かない不便な世の中なのか、よく分からないですね。
あーあ。もう深夜二時過ぎだ。ホントにそろそろ寝ましょう。おやすみなさい。