「クギサキ、お前は柔道をやるために生まれてきたようなもんじゃの、練習を続けていたらそのうち強くなるぞ、ガハハ」
・・・と、言われてその気になって、つらい練習にも耐えながら数か月が過ぎていた。
しかし、一向に強くなった自覚がない。
先輩と乱どり稽古(実際の試合のような練習)をしても、いつもコテンパンにやられるばかり。勝てたことなんて一度もなかった。
そんな僕も2年生になり、大会に出なければならない日がやってきた。大分郡の大会で、僕は個人戦に出場することになった。
結果は、惨敗。
詳しい試合内容は忘れてしまったが、とにかくあっという間に投げられたという記憶がある。
弱さを実証してしまった僕は、以来、試合に出ることはほとんどなくなり、もっぱら補欠選手となる。まあ気楽と言えば気楽なのだが、やはり悔しいという気持ちもあった。
柔道といえば、やっぱり黒帯。
黒帯を締めた柔道着姿には、こんな弱い僕でも、強い憧れを抱いていた。
大分県では夏と冬の2回、昇段試験が行われていた。
中2の1月か2月ころだったと記憶している。僕は、昇段試験を受けることにした。
当時の同期部員たち(たしか僕を含めて7名いた)も全員、昇段試験を受けるために、遠く大分市まで朝いちばんの汽車に乗って出かけて行った。
試験場は、大分市内の大きな体育館。
いかにも強そうに見える柔道家たちが、ぎっしりと詰めかけていた。
(果たして黒帯はとれるのか?)