パフスタッフが綴る何気ない日常。日々感謝をこめて。「パフ・ザ・マジックドラゴン 執務室」

ゴリラ的読書日記之8

2016年2月9日 (火曜日)

こんにちは。以前に「ゴリラ的読書日記之4」にてチラリと書いた定常化社会。所謂、ゼロベース成長を受け入れ、人々の新たな心のビックバンを期待する時代。私は『羅針盤は地図に勝る』と云われているよう、まずは低成長フェーズに入った経済先進国(つまり日本国)が先に指針を示し、徐々に時流を適合させるようにその指針に微調整を加えることが必要と考えますが、それは結構骨の折れること。今は我々国民も定常化とは何かについての一定の知見、基づく意見を有し、それらを用い議論を交わしていくことが、今暫くは大切、と思います。

その中で今回の1冊。『経済学私小説 <定常>の中の豊かさ』。一橋大で教鞭をとる齊藤先生がご自身の徒然なるままに書き綴った小説短編をご自身が編集し、解説を加えた何とも摩訶不思議な著書です。齊藤先生は定常化社会を「黄昏」、しかし「夜が訪れない黄昏」であり、しかもその営みは「エネルギッシュな」ものであると表現しています。文明的に成熟した人々が織り成す「繰り返し」(「大体おんなじ毎日 それでまあまあそれなりOK…」的な意味合い?)の営みが生み出した「豊饒」こそが私達、資本主義社会で切磋琢磨する人間が行き着く先なのかもしれない…と感ずる今日この頃です。

やはり現代は中々面白い時代ですね。100年後の人類は今の時代をどう表現するのでしょうか。

□齊藤誠(2016)『経済学私小説 <定常>の中の豊かさ』日経BP社。

□動機:真に不遜な言い回しですが、前回同様に第二の本を捜していた矢先でした。定常に関する定義付けは私の興味関心領域の中でも最深部に近く、一時その最深部から離れたテーマ(でも繋がっていないことはない…と信じる…)について学びを得ていたので、一度立ち戻ってみようと思い、購入しました。

第二の本の条件は意識せずとも頭にその内容が入ってくること。つまりは心情的に「好きな」テーマであることが絶対条件なのですが、その点からすると読み始めて直ぐにヤバい、と直感的に分かってしまいました。「ヤバい」を翻訳すると「夜の電車の中で口を開けて寝ている酔い潰れた同世代を目の前に、こちらも少しいい感じに眠気に襲われながらも、程よい緊張感で読み続けられるような代物ではない。心穏やかに、一人、静かに読み込むものだ」であり、内容は多面的で、それでいて実はその全てが難解。正直申し上げると、私にとって興味が湧かないアプローチの章は、理解しようとすることを諦めてしまったほどでした。…ですので、はい…ご容赦を。

□所感:その中でも私が是非、私と同じ匂いを感ずる方々にご推薦したい章は第一篇、二篇、三篇、四篇、八篇、番外篇のその四、辺りです。辺りと表現したようにテーマは固定されており、アプローチが異なっているだけなので、私が眠気に本格的に襲われることなく読めた章と表現した方が正しいかもしれません。

頻繁に静止画から背後の動画を想像することが大切、と経済指標を読み解く上で語られるフレーズですが、例えば一人当たり名目GDPが「停滞」しているのではなく、「高水準で留まっている」ことを理解することが重要であり、背後にある共に強力な「拡大させようとする力」と「縮小させようとする力」がぶつかり合い、その結果の数値であることを感ずることが肝要。

その一例として、資本設備ストックが高水準で維持されており、巨額の減耗分が押し寄せているため、これ以上の投資は「過剰」。その場しのぎの数字遊びで生まれたツケは将来に跨り、更に首が締まることになる。実質家計消費推移も過剰投資さえ起らなければ、現時点であれば「横ばい」であり、定常を維持することが可能。もう欲張らずに無理せんとこ、が合理的、且つ効率的な解ということです。

または経済停滞もGDPデフレーターの低迷、つまりは名目GDPが実質GDPの成長に追いついていない、原因はデフレから交易条件の悪化への時代の潮目の変化によるものであるため、最早1国で能動的に処理できる代物ではなくなってしまう。すなわち、仕事が無くなってしまう人(多分に国民からの税収で沢山の所得を得ている人々、及び一部業界の高額納税者)がいるので、今暫くはデフレのせいにしておこう、的な思惑が働き、事実に気付かされていない。一言に「ケセラセラ」、私達は現状こそベター、是非にあらずであったということです。

いやはや…無知は罪である、と改めて感じます。学びに貪欲にならんといかん…

□お薦め著書

大竹文雄(2005)『日本の不平等 格差社会の幻想と未来』日本経済新聞社。

広井良典(2011)『創造的福祉社会-「成長」後の社会構想と人間・地域・価値』筑摩書房。

小塩隆士(2014)『「幸せ」の決まり方 主観的厚生の経済学』日本経済新聞出版社。