パフ代表の徒然ブログ「釘さん日記」

この3連休の後半(日曜日の夜から昨日いっぱい)、なんと不覚にも寝込んでいた。

治りかけていた風邪がぶりかえしたのか、別の菌が侵入してきたのか、扁桃腺が腫れてしまい39度近い熱が出てしまった。

幸か不幸か、台風が関東を直撃したことで、昨日の予定がすべてキャンセルとなり、丸一日、家の中で休むことができた。

で、床で横になりながら、最近読んで感動した小説を二度読みすることにした。出張中に読んで、新幹線や飛行機のなかで涙を流してしまった小説だ。

その小説とはこれ。

海賊

 

マラソンのライバルだった(最近の僕は戦線離脱気味なので過去形です苦笑)名大社の山田社長が、以前(5月中ごろ)、ブログに書いているのを見かけて「へー読んでみようかな…」と思っていたが、なかなか買うまでにはいたらなかった。

ところが8月中旬、山田さんのブログ記事も忘れかけたころ、ある人物から、「クギサキ、この本読んでみろ!」と、わざわざ僕に読ませるために書店から買ってきたというこの本を、手渡されたのだった。

この本の書評はいろんなところで書かれているので、僕なんぞが駄文を連ねる必要はないのだが、それでもやっぱり書いておきたいことがある。

小説の主人公である国岡鐵造(出光興産創業者の出光佐三)が、けた外れにスゴイ人物であることは言うまでもない。

が、この国岡鐵造の周りにいた男たちの存在が、国岡鐵造をして、スゴイ人物に成長させていくのだ。

僕は読んでいて、そこに感銘を受け、感動した。

 

いちばんは、国岡鐵造に、財産を売り払って作った六千円という大金(いまの貨幣価値で約1億円)を、独立資金として惜しげもなく差し出した日田重太郎。融資でも投資でもない。本当に「あげた」のである。

「国岡はん、六千円は君の志にあげるんや。そやから返す必要はない。当然、利子なども無用。事業報告なんかも無用」

「ただし、条件が三つある。家族で仲良く暮らすこと。そして自分の初志を貫くこと。ほんで、このことは誰にも言わんこと」

重太郎は、家に戻ってそのこと(財産を売った金を鐵造にやると約束したこと)を妻に告げた。

妻は、「はい」とだけ答える。

拍子抜けした重太郎は、妻に「怒らないのか?」と聞く。

妻「あなたがそれほどの人と見込んでのことでしょう」

重太郎「国岡はいずれ立派なことを為す男だ」

妻「はい。それはいつごろですか?」

重太郎「そうやなあ。何十年も後のことかもしれんなあ。もしかしたら、そのときは、わしはもうこの世にはおらんかもしれん」

妻は「それでもいいではありませんか」と言って、おかしそうに笑う。重太郎もそんな妻を見てにっこりとほほ笑む。

う……。このくだりを書き写すだけでも涙が出てくる。自分の創業のときに、何も言わずに出資してくれた知人・友人たちの顔が浮かぶ。しかも、まだなんの恩返しもできていない自分を恥じる。

のちに国岡商店(出光商会、のちの出光興産)を日本を代表する大企業に育て上げた鐵造は、重太郎の晩年の生活を手厚く保護する。亡くなった際には重太郎の故郷の淡路島で、大きな社葬を執り行っている。まちがいなく鐵造の大恩人であり、日田重太郎なくしては、国岡鐵造(出光佐三)が世に出ることはなかった。

 そしてもう一人(というか一社)。あまり書評にも出てこないのだが、二十三銀行(現在の大分銀行)の支店長と頭取である。国岡商店(出光商会)は、大正十二年の関東大震災のときと、昭和二年の金融恐慌のときに倒産の危機に瀕した。それを救ったのが、二十三銀行の気骨溢れるバンカーたちだったのだ。

関東大震災の折。多くのメガバンクが取引先からの融資を引きあげていた。国岡商店も第一銀行(現在のみずほ銀行)から突然25万円(現在の数十億円)の返済を迫られていた。二十三銀行の支店長は「国岡鐵造という男は立派な男です。国岡商店もまた立派な店です。できれば、われわれが支えてあげたいと思います」と、第一銀行が引きあげようとした金額と同額の莫大な融資を肩代わりしたいと頭取に申し出た。

頭取は、「君がそこまで言うのなら、そのとおりにすればいい」と言った。支店長はびっくりして「本当によろしいのですか」と確認した。支店長は「銀行家は立派な商人を援助することが使命です。話は終わりです」と言った。支店長はまるで自分が融資を受けたように喜びを感じ、「ありがとうございます!」と頭取に頭をさげた。

う……。泣ける。

金融恐慌の折にも(そのとき二十三銀行は合併によって新体制になっており、支店長も頭取も交代していたのだが)、やはりそのときの支店長と頭取が、国岡商店を体を張って助けた。

新体制となった二十三銀行の審査部は国岡商店への過大な貸付金を不良債権と見なし、融資引きあげの指示を当時の支店長に命じた。しかし、支店長は引きあげを拒んだ。「まことの銀行家ならば、国岡商店のような会社にこそ、援助すべきと私は考えます」と頭取に直訴。支店長のことばを受け、頭取は国岡鐵造と二人だけで会談する。そして翌日の重役会議で「国岡商店への融資回収の方針は撤回する。いや、さらに融資の枠を広げても良い」と発言し、重役たちを唖然とさせた。

もし、震災や金融恐慌の際、鐵造がこのような真の銀行家と巡り合っていなければ、国岡商店(出光興産)は今ないはずだ。一説には、震災の折の融資引きあげに際して、鐵造は憔悴しきっており、「自殺も考えていたのではないか」と言われているくらいだ。

 

ということで、ずいぶん長く書いてしまったけど、かくのごとく、英雄と言われる人物の陰には、その人物を支えた傑物たちが大勢いるものなのだ。

日田重太郎や銀行家のことだけ書いたが、さらにスゴイ魅力的な人物がこの小説にはたくさん登場する。

経営者、投資家、バンカーはもちろんのこと、21世紀を支える多くの若者たちにも読んでもらいたい本なのである。

国岡鐵造と重ねるにはあまりに器の違いすぎる僕だが、やはり日田重太郎のような人物に支えられながら生きてきた。この本を、「クギサキ、読んでみろ!」とプレゼントしてくれた人物は、さしづめ僕にとっての「日田重太郎」なのである。

 おっと、ちょっと時間をかけすぎた。そろそろ出なければ。

熱は下がってきたようたが、まだ扁桃腺は腫れている。早目に出かけて会社の裏のクリニックで診てもらうことにしよう。情けないけど、本日はタクシーを使って行ってきます!