パフ代表の徒然ブログ「釘さん日記」

昨日の日記の続きである。

伊那食品工業株式会社とは、寒天のトップメーカーである。トップメーカーとはいえ、資本金9,680万円、従業員数400名弱の中小企業である。しかも本社所在地は、長野県の伊那の山の中。

しかし、この中小企業が、いまとても注目を浴びている。

それは、まさに昨日書いた、『いい会社をつくりましょう』という社是に集約される。

同社は、『いい会社』のことを次のように説明している。

—–

「いい会社」とは、単に経営上の数字が良いというだけではなく、会社をとりまく総ての人々が、日常会話の中で「いい会社だね」と言ってくださるような会社のことです。「いい会社」は自分たちを含め、総ての人々をハッピーにします。そこに、「いい会社」をつくる真の意味があるのです。

—–

「業績を守る」という大義名分の下、従業員や下請けを不幸にしている会社が多い中、同社のこの社是がいま注目を浴びているのである。多くの大企業の経営者が、その真髄、真意を確かめるために、同社を訪れているという。

この社是を掲げ、同社を今日まで牽引してきたのが塚越寛(つかこしひろし)会長であるのだが、塚越会長は、創業者ではない。

塚越会長は高校生の時、肺結核を患い、高校をやむなく中退。病院での闘病生活を3年間過ごした。医学の進歩もあり病気は完治するのだが、世は大変な就職難の時代で、高校中退の学歴のものを雇ってくれる会社はほとんどなかったという。

そんな中、困窮した「塚越少年」を採用してくれたのが、伊那食品工業の親会社の木材会社だった。塚越会長が弱冠20歳のときである。 「拾われたようなものだが、働けるだけで幸せだった」と、本人は著書で語っている。

塚越会長が21歳のときのこと。社員数10名ちょっとの寒天を作る会社に行ってくれと、その木材会社の社長に言われた。ところがその会社(つまり伊那食品工業のことです)は、脆弱な生産設備しかない大赤字を背負った会社。「会社を健全な状態にすること」というのが、塚越会長に命じられたことだった。肩書きは「社長代行」。弱冠21歳の、寒天についても経営についてもまったく無知な若者の、実質的な社会人のスタートだったのだ。

あたりまえだが、とにかく大変だったそうである。「ほかの会社に転職したらどうだ」と周囲の人から勧められることもあったそうだ。

その時、塚越会長は次のように考えたそうだ。著書から引用する。

——-

人間どこで苦労するのも同じ。目先の利益を案ずるよりも、与えられた職業を天職と思い、とことん努力すべきではないか。精一杯努力してベストを尽くし、それでだめなら仕方ない。けれど、少し働いて上辺のつらさを垣間見て、あまり努力もしないで、あれが良い、これが良いと職を変えるべきではない。

(中略)

人と職業の出会いは、ほとんどが運命的なものです。だれもが一番望む職業についているわけではないと思います。

時代が変わって、「自分がやりたい仕事をすることが一番いいことだ」といまの若いみなさんは言いますが、何が自分に一番向くかということは、案外分からないものです。その仕事に精通し、その仕事が人一倍できるようになったとき、また自分の考えで仕事を進めることができるようになったとき、仕事は楽しくなるものだと思います。

積極的な気持ちで、「寒天屋」を自分の天職と考え、働いてきた結果として、いつのまにか業界のトップメーカーになっていたというのが、いまの実感です。

——–

まさに、僕たちパフが若者たちに伝えているメッセージと同じなのだ。だから僕は、このことを仰っている塚越会長にいちどお会いしたいと思っていたのだ。

 

今回の訪問は、塚越会長と以前から親交があったという、出版社の元編集者の方(中馬さんという、僕らと同年代の女性の方)のコーディネートで実現した。僕を入れて11名の経営者仲間が同社を訪問できることになったのだ。

バスに揺られること3時間半。お尻が痛くて我慢できなくなったころ、伊那市のバス停に到着した。そこからさらにタクシーで15分。ようやく伊那食品工業の広大な敷地に辿り着いた。

同社が運営するレストラン(一般市民にも開放されている)で昼食を済ませた後、本社事務所の立派な会議室に通された。

Ca3c00360001  

ほどなくして、塚越会長と、息子さんである塚越専務が入室されてきた。

会長は72歳のはずなのだが、50代と言われてもおかしくないくらいに若々しい。エネルギッシュな方だった。

専務は40代なかばであろう。気さくで人懐っこい笑顔が印象的だった。

約1時間、塚越会長に講義いただいた。そしてその後、塚越専務にバトンタッチされ、さらに詳しい質疑応答や、敷地内のさまざまな施設を回りながら、懇切丁寧に僕らにご説明くださった。まるまる3時間以上を、会長と専務が僕らの為だけに割いてくださったことになる。

お話いただいたことは、(あたりまえだが)ほとんどが著書に書いてあることと同じではあるのだが、やっぱりご本人が目の前で語ると説得力がある。

塚越会長が繰り返し仰っていたのが、「企業としてあるべき姿を目指す」ということ。

企業の目的は「永続」である。だから、社員を大事にする。自分は臆病で会社を潰したくないから、社員を大事にする。あたりまえのことを淡々とやる。

急成長は会社をダメにする。誰かが急に伸びれば誰かが潰れる。だから、少しずつの末広がりの成長を望む。

こんなことを仰っていたのが印象的だった。

同社は、社員に数字目標を課していないという。また、年功序列を原則としているという。ただただ「いい会社をつくる」ために、「会社としてのあるべき姿を追求する」ために、社員には「ベストを尽くそう」と言っているとのことだった。

Ca3c00370002 Ca3c00400001

同社は、資本金が1億円にも満たないというのに、純資産は170億円もある。建物や工場・設備の資産も莫大だ。自己資本比率は74%。超優良企業なのである。

これだけの財務内容の会社だからこそ、理想を語れるのか。それとも、理想を語り続けたからこそ、これだけの優良企業となったのか。

前者のような見方をしてしまうのは寂しいのだが、でも、理想を語りたくても語れない会社や経営者が多い中、やっぱり、前者のような見方もあるだろう。

大赤字でニッチもサッチも行かなかった同社を、どうやってここまでの盤石な会社にすることができたのか。きっと綺麗事だけでは済まない、いろんな出来事があったのではないかと思う。そんな話も、(また機会があれば)次回はお聞きしてみたいと思った。

 

いやあ、それにしてもいい機会をいただいた。

企画してくださった中馬さん、ホントにありがとうございました。バスの中でいただいた手作りの「おにぎり」も、とっても美味しかったです。また有意義な企画を楽しみにしています。これからも、よろしくお願いいたします。

 

<追伸>

あえて説明はしませんが、宿泊先で撮影した写真(写っているのは誰だ?)と、翌日帰り道に立ち寄った凄い菓匠の店(Shimizu)の写真も載せておきます。

Ca3c00410001

Ca3c00430001 Ca3c00460001

Ca3c00480001 Ca3c00490002